情景描写を上手に書くには、情報をいかに多く持っているかによる | 小説の書き方講座

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情景描写を上手に書くには、情報をいかに多く持っているかによる

気付いた人しか分からないような、細やかな観察眼を見せ付けること

情景を描写するにはまず、頭の中に描きたい景色が思い浮かんでいなければいけません。
<バックグランドを考える>で、世界を詳しく創造したはずですから、街並みがどんなものか。そこで人々がどのように生活しているのか、うっすらとでも貴方の脳裏には浮かんでくるはず。
情景描写の基本は「よし詳しく鮮明に」。それは何故かと言うと、貴方が見ているものと同じ情景を、読者にも想像してもらわなければならないからです。

 

夜の住宅街はひっそりと静まり返っている。

 

上記のような一行だけでも、決して悪くはありません。静かな住宅街の情景など、誰でもある程度は想像出来るからです。
しかし情景描写としては足りませんね。ここにもう少しだけ、詳しい情報を付け足してみましょう。

 

深夜零時を過ぎた住宅街は驚くほど静かで、小動物の気配すら感じない。電球の切れかけた街灯が一つ、遠くのほうでチカチカと瞬き、網がかかったゴミ袋の山を照らしている。

 

どうでしょう? 最初の一文よりは景色の情報が多いため、より詳しく情景を思い浮かべられたのではないでしょうか。
実際、その場にいる者にしか見えない情報を盛り込むのがコツ。
誰かが捨てたのであろうコンビニの袋が風に吹き上げられ、空中で弧を描いていることも。風が吹く度に、近くの家の庭に生えている大きな気がざわめき、ブロック塀に枝葉がこすり付けられてガシガシという不可思議な音が聞こえることも。その家の二階の窓辺に、ぬいぐるみがたくさん飾られていることも。たった今、目の前を一台のバイクが横切ったことも。すぐ横にはいかにも流行っていなさそうなスナックがあり、派手なピンクの看板が安っぽく光っていることも。さらにその隣にある焼き鳥屋からは、香ばしくおいしそうな匂いと煙が漂ってくることも。風の冷たさに思わず鳥肌が立つことも。その場にいない読者には何もかも伝わっていません。

 

それら全ての情報を伝え尽くす必要はありませんが、小説は会話文だけでは成り立ちませんよね? 間、間に描写を入れることが肝心になってきますが、最初のように一文だけ……というわけにはいかないのです。その時、いかに小説の中の景色を詳しく読み手に伝えられるかが勝負。実際にその景色の中に立てるのは、想像をしている貴方より他にはいないのですから、一体そこからどんなものが見えるのか、聞こえるのか、匂うのか、感じるのか、それらを読み手に詳しく教えてあげましょう。

情景は思い浮かぶが、それを描写として文章に出来ない人のために

景色は思い浮かぶのだけれど、描写が出来ない……という初心者は多いようです。

そんな初心者の共通点は、つまり「写真を見ているだけ」に過ぎないということ。マンガの中の一コマを見ているだけなのと同じで、目でしかものを見ていない。五感を働かせていないということが言えると思います。
写真からは音も、匂いも、頬にあたる風の柔らかさも、気温も、手に持っているリンゴのしっかりとした重さも感じることはできませんね。描写に悩む場合は、人間には五感があるということを思い出しましょう。
練習までに、貴方の家の近くのコンビニから、あるいはバス停、あるいは駅などから、自宅までの道のりを実際に描写してみる……という練習をしてみてください。

 

私の家の周辺だと、このような描写になります。

 私はサンクスでお気に入りの「じゃがりこ」を購入し、カウンターの隅に置いてあった無料のタウン情報誌を一冊引っ掴んでから外に出た。
 乗用車が50台も止まれるというこのコンビニ――サンクス美原店――自慢の駐車場には、いつも大型トラックが数台停車している。内側からカーテンが引かれているため、運転席内部をうかがうことは出来ないが、恐らく長距離トラックのドライバーたちが仮眠をとっているのだろう。ここは高速からそう遠くない場所に位置する住宅街。食料も飲み物も揃い、トイレ設備も整っているコンビニは、彼等にとっては絶好の休憩スペースという訳だ。
 駐車場を出て歩道を進むと、隣にある病院の花壇がしばらく道なりに続く。季節ごとに花が植え替えられ、いつもキレイに手入れされているこの花壇の彩りと香りが、どれだけの通行人と患者たちの心を和ませているか。花には詳しくない者にでも、一目で容易に想像できるだろう。しかも花壇を眺めるためのベンチと自動販売機、ゴミ箱までが近くに設置されているという配慮の徹底ぶり。さすがはメンタルクリニック。気配りの細やかさには脱帽する。
 もう4月だというのに、風はまだまだ冷たい。私は歩きながら少しでもその風を遮ろうとコートの襟元を手で押えた。しかし頬や耳、指先は文字通り吹きっ晒し。
どうあがいたところで、当面の寒さからは逃れられないことを悟っただけだった。

 

上は、私の家の近くにあるコンビニ(サンクス)から、ほんの100メートル歩いた場合の描写です。最後は情景描写ではありませんが、「私の様子」から「寒さ」を感じていただけたのではないかと思います。ほんの100メートルでもこれだけ書けます。それは何故か。家の近くのサンクスはよく行く場所。周辺の情報はある程度細かく知り尽くしているため、豊富な情報量を読者に提供出来るからです。こういう練習を繰り返していると、ファンタジー世界を描くときにも五感を使えるようになります。

 

では、空想世界の情景を描写してみましょう。

 毛織物が盛んなメマール村には、青々とした広い牧草地が数多く広がっていた。牛や羊が柵の向こう側で優雅に草をはみ、近くの作業場からは絶えず機織の音が響いてくる。牧草地の脇にある果樹園では、梯子に登った農夫たちが朝早くからリンゴの世話に大忙し。首から下げた汗拭きで顔を何度も拭いながら、無言で黙々と作業を進めている姿が遠くからでもよく見てとれる。
 村の脇を流れる川辺からは、洗濯物をする若い女たちの和やかな歌声。村中を駆け回ってはしゃぐ子供たちの笑み。
 村ののどかさと豊かさを感じ、すっかり警戒心を解いたローアンは、微笑みつつ背負っていた大剣をマントでくるむように隠した。それから、一番手近な家を訪ねようと、雨上がりの泥道をふらふらと歩き回る。
 家々はどこも低い石垣で周囲をしっかりと固め、敷地内に物置小屋、作業小屋、そして家畜小屋を備えているようだ。
 ローアンが石垣をぐるりと回りこみ、家々の入口から敷地の中を順番に覗いて回っていると、庭に植えた大きな樫の木の下で、幼い少女がしゃがみこんでいるのを発見した。少女は片手に小枝を持ち、地面に絵を描くのに夢中な様子。ローアンは脅かさないよう注意を払い、少し離れたところから声をかけた。
「こんにちわ」

 

どうでしょう? 少しはメマール村の様子が伝わったでしょうか。

 

 読者へ情景を伝えたいなら、まずは貴方が、その情景に関する情報を、五感をフルに働かせてより多く想像し尽くしてください。

 

このサイト内ではもう何度も言っていますが、人間は、自分が持っている知識以上のものを、脳内から引き出すことは出来ないのです。だから想像するのですよ!
貴方の情景描写上達のために、もっと物語を肌で感じましょう。

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